灰ならし大
鍛冶屋の田中さんがいたころの南部鉄器 灰ならし 大
真鍮が流されています。
この深いギザギザは別の職人さんが、真鍮流しは田中さんが、鋳物はこれまた別の工房でと3人の職人さんの手にかかってやっとできあがっていた灰ならしです。
この真鍮流しの技も、鍛冶屋の田中さんにしか出来ませんでしたので、現在はなくなってしまいました。
この真鍮流しに関しての面白い話
おもしろいのが、この技は代々師匠から伝わっています。
田中さんは15で弟子入り。
それから20年〜30年の修行。
その間一度も師匠の手元を見たことがないというのです。
ウソのような本当の話。
日本の昔の職人ならでは逸話です。
弟子にも見せない。教えない。
現代でこんなことをしたらスグにいなくなってしまいますし、私も嫌です。こうして貴重な技が無数に消えていったことを思うと決して褒められた教え方ではありませんが、時代を感じさせる逸話であることは確かです。
なんでもお師匠さんは真鍮を流す時はいつも田中さんに背中を向けて手元を見せなかったそうです。
だから田中さんは言います。
「まだお師匠には及ばねぇ。今もアノ背中を思い出しながら試行錯誤してんだ」
おおおい!
お師匠さん!
お弟子さんには教えましょうよ!
というのが私の心の声ですが、とりあえず昔の師弟関係を思わせる話でした。
そんなわけで、真鍮流しの技は田中さんに一応受け継がれています。
そして田中さんは隠すような人ではないのでお弟子さんにも充分伝えたはずなのですが、お弟子さんは「まだまだ自分の真鍮流しの技は未熟なので」とのことでした。
考えられる理由は1,師匠の技をあえて使いたくない。プライドと競争心から。2,本当に技術的に未達だから 3,単に金色のキラキラが好きじゃないから
私などは商売人ですから、お客様が求めるものや欲しい物を提供しようとします。でも芸術家や職人さんは自分の作りたいものを作ります。
残念なのは結局、技を伝えても職人さんの旨一つで伝統が消えていくというのも面白いなと思いました。(本当はあまり面白くはないですが)
今後まだお若い独り立ちしたお弟子さんの気が変わって、真鍮流しが復活することを願うばかりです。
灰ならしは何に使うのか?
灰ならしは、灰均しと書くだけあって灰を平らにする道具です。
一方で灰を掘って炭を埋めるための道具でもあります。
どちらも灰均しが無いとできません。
炭を灰に埋めたくなる理由
- 外出前に、炭に灰をかぶせて安全を確保する。
- 火力が強いので、少し弱めたい。
- 翌朝の火種を作るため。
- 備長炭だけで炭を燃やしたい。
灰は強力な断熱材
燃えている炭の上に、灰を完全にかぶせるとその上は熱くありません。
上にティッシュを乗せてみても、全く燃えません。
心配になるかもしれませんが、そのまま出かけても大丈夫なほどです。
とはいえ、上から何かが落ちてきて、灰をどかして燃えた炭を周りに
跳ね飛ばさないとも限りません。
やっぱり長時間の外出時は、炭を完全に燃やしてからお出かけになるか、
外出前に炭の火を完全に消したいですね。
火力調整と火種作り
炭は空気の多さで燃え方が変化します。
だから炭を立てて燃やすと一番空気があたってよく燃えます。
これはお互いの熱を補完しあって、これからどんどん燃やそうとしてう様子。
立ちにくい炭はこんな感じにしたり。
茶道ではお釜のお湯を沸かす時は、炭を立てます。
ただし火鉢は、本当は炭を寝せて使います。
お店を始めた当初、カッコつけたくて「立てて使いましょう」
なんてやったものだから、いつの間にか火鉢の使い方の定番に。
でもおばあちゃんが見たらきっと言います。
「あら。こんな使い方じゃ駄目よ。」
そうなんです。
火力は強いですが、貴重な炭がどんどん燃えていきます。
もったいないですし、しょっちゅう炭をいじっていないとナラないのです。
(この辺はお使いになっているとわかります)
この火力調整のために、どうしても灰均しが必要なのです。
炭は結構埋まっています。
でも、良質な灰は、灰の中で炭は燃え続けていきます。
他には、備長炭だけで炭を燃やす時に灰を掘ったりします。
備長炭を火鉢・囲炉裏で燃やすときのコツ
こんな感じで、備長炭を置く前に予め灰を掘っておきます。
そして燃えた備長炭を置いたら、なるべく炭の下に空間ができるように
火箸や灰均しを駆使して穴をほっておきます。
こうすると空気が下から上にぬけて、備長炭がよく燃えます。
これ以外にもっと簡単に備長炭を燃やすコツは、
クヌギ炭や楢炭と一緒に燃やすことです。これだと
お互いの炭の熱を使うので、とても簡単です。
備長炭は不揃い君で800度位。横綱組んで最大1200度の燃焼温度があるので、
1本だけ入れれば充分、強烈に暖かいです。